私のお墓の前で泣かないでくださいそこに私はいません
「行くぞ」父の声がした
それは夜、病棟のトイレで。
私は入院していて、自覚はなかったけれど重い病気になっていた。
その声がしたのはなぜなのか
分かったのは退院後だった。
その日、いつものように眠りについた
ふと、目が覚めた
上半身がふわっと上がり「ああ身体が離れていく」
と思うと、祖父にグッと背中を押さえつけられた。
そのまま朝を迎え
病状がよくなりとんとん拍子に退院まで至った。
あの出来事は何だったのだろう
祖父は私が生まれる前に他界しているし
その夜に聞こえたのは父の声だったのに
しかもうちは離婚していて
父と母が会うことがないように父は面会はおろか
電話も禁止されていた
なぜ父の声なのか、会ったこともない祖父がなぜ?
疑問少し抱え、退院してから何日も経ったころ
「久しぶりにお父さんに会おうか」
と妹が言ってきた
「そういえばさ、お父さんの声がした夜におじいちゃんに背中をグッと押されて、それからよくなったんだよね~」とおかしいよねって妹に言うと
「そうだよじーじが助けたんだよ」と妹。
「どーゆーこと?」
話を聞くと
私の病状を聞いた父が何もできずしたこと
それは祖父が眠るお墓へのお墓参りだったらしい
毎日仕事の前にお墓に寄り、私の病状回復をお願いしていたとか
それを聞いたとき、そんなことって本当にあるの?
信じられないまま父に会うと
「お墓に行こう」と父。
父も妹と同じように
「じーじが助けてくれたんだよ」と言った。
ごめんおじいちゃん
怖いって思っちゃったよ
だって私は物心ついた時からお父さんに嘘ばかりついて
お墓参りだってろくにしたことがない
こんな親不孝でダメな孫なのに
おじいちゃんはみていてくれたのかな
寂しいときも側にいてくれたのかな
祖父に厚かましいお願いがある
それは
どうか父が私たち姉妹の嘘に気付きませんように
あと、こんな孫でごめんなさい
祖母と父がいつまでも幸せでありますように
また行きます